ep412

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第4巻 第12話

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一

早瀬市役所を出て、駅へ向かう道でも、皆川は考え続けていた。

「翻訳する人はいた。でも、その後を見続ける人がいなかった……」

早瀬市で見えてきた事実は、湊原市で抱き始めた仮説と、不思議なほど重なっていた。

翻訳する人と、担い続ける人。

その二つが揃って初めて、仕組みは根付くのではないか。

もしそうだとしたら――。

皆川の足が、いつの間にか止まっていた。

その時、田丸が、いつもの早口ではなく、静かに声を掛けた。

「先輩、まだ全部見たわけじゃないですよね」

皆川は、その一言に救われた気がした。

これまで支えられる側だった田丸が、初めて自分を支えるような言葉を掛けてくれた。

「……うん。そうだね」

皆川は、小さく頷いた。

少し遅れて、白井が二人に追いついた。

三人で駅へ向かって歩き始める。

「そういえば」

白井が、思い出したように口を開いた。

「前にいた自治体でも、似たようなことがあったんだよね」

「前のご勤務先……渚町でしたよね」

皆川が確認すると、白井は頷いた。

「今よりずっと小さい町だったけど、青葉市の取組を個人的に調べて、ノートに書き溜めていた職員がいたの」

「その方が、導入しようとしたんですか」

「私も一緒に、正式な提案にできないか試したことがあった。でも、途中で終わっちゃった」

白井は苦笑した。

「その後、どうなったかは、私も知らないんだけどね」

皆川は、その言葉に引っかかった。

早瀬市では、一度は動いた仕組みが止まっていた。

渚町では、そもそも途中で止まったという。

同じ仮説で説明できるのだろうか。

「白井さん」

皆川が言った。

「一緒に行っていただけますか」

白井は、少し驚いたような顔をしたあと、笑って頷いた。

「もちろん」

横で聞いていた田丸が、小さく言った。

「あかね先輩……これ、もっとたくさん見ないと分からないやつですよ。きっと」

皆川も、同じことを思っていた。

フィールドノート 早瀬市・転換点

「翻訳者」と「担い手」という仮説は、早瀬市にも当てはまるように見える。

ただし、当てはまり過ぎていること自体が気になる。

一つの仮説に、都合よく事例を当てはめている可能性はないか。

仮説を裏付けるためではなく、崩すための調査も必要だと思う。

白井先輩から、前任地・渚町の話を初めて聞いた。

青葉市の取組を個人的に調べていた職員がいたこと。

白井先輩も提案に関わったが、途中で終わったこと。

現在どうなっているかは、白井先輩自身も知らない。

次の調査対象は、渚町とする。

決めたのは皆川だったが、「私も行きます」と即答したのは田丸だった。

聞かれる前に答えが返ってくることに、皆川はまだ慣れていなかった。

「先輩が見ているものを、もっと近くで見てみたいので」

皆川は、少し面映ゆく思いながらも、その言葉を頼もしく感じた。

この話のFM豆知識

FMの教訓:職場の変化は、相談の仕方や会議での資料の使い方を調べて確かめる。

◆ 「雰囲気が変わった」の内容を聞く

職員が「雰囲気が変わった」と話したら、誰が、いつ、どの場面で、以前と違う対応をしたのかを聞きます。例えば、施設の不具合を早く相談するようになったのか、会議で費用や利用状況を確認するようになったのか、他課が資料を出すようになったのかを確かめます。

◆ 別の職員の話や記録と照らし合わせる

話しやすくなったという実感は、職員への聞取りで分かることがあります。一方、一人の感想だけでは、課全体の仕事が変わったかは分かりません。立場の違う職員にも話を聞き、相談や会議の記録、資料の更新状況と比べます。良くなった点と、困り続けている点を両方確かめます。

◆ 物語の場面

長谷や石末らは、本庁全体の雰囲気が変わったと振り返ります。この発言は、計画書や数字には記されにくい職員の実感を伝えています。ただし、この言葉だけでは何が変わったかまでは分かりません。調査では、その前後の仕事や職員同士のやり取りをさらに聞く必要があります。

■ 担当者が行うこと

相談先、相談する時期、会議で使う資料、他課への確認方法について、以前と今を聞いてください。複数の職員の話と業務記録を照合します。「連携が良くなった」でまとめず、例えば資料が早く届くようになった、担当不明の問い合わせが減った、という具体的な変化を記録します。
つづく

※本作はフィクションです。登場する人物・団体・自治体等はすべて架空であり、実在するものとは関係ありません。作中の制度・法令に関する記述は一般的な説明であり、最新情報は関係省庁にご確認ください。詳しい注記はこちら