次の箱
四月一日。
長谷巡は、管財課長として机の前に立っていた。
新しい係長が来る。異動してくるのは、この春で三十代の半ばになる職員だった。
長谷は段ボール箱を三つ積んだ。施設の維持管理。契約。公用車。什器。目を通せば分かるものばかりである。
最後に、綴りを一冊置いた。
背表紙には「市民会館 耐震」とだけ書いてある。平成の終わり頃に一度診断をして、そのまま止まっている建物だった。
長谷は、それを箱の底に入れなかった。
三つの箱の、一番上に置いた。
新しい係長が来て、荷物を確かめ、その綴りを手に取った。
「これは」
長谷は答えた。
「一番上にあるやつです」
「はい」
「先に読んでください。それから、話を聞かせてもらえますか」
係長は綴りをめくった。背表紙の下に、担当者の名前が並んでいる。まだ三つだった。
「これ、けっこう前のものですね」
「そうです」
「なぜ、止まってるんですか」
長谷は少し考えてから言った。
「たぶん、誰かが間違えたからじゃありません」
係長が顔を上げた。
「一つずつは、答えが出ていると思います。読めば分かります。ただ、全部を一つにする人がいなかった」
「それは、誰がやるんですか」
長谷は自分の席の後ろの書棚を見た。
「本庁舎 耐震」の綴りと、その隣に「本庁舎 耐震改修」が並んでいる。背表紙の名前は、九つで止まっていた。
「一人ではできません」
長谷は言った。
「構造の人にも、営繕にも、財政にも、総務にも聞くことになります。全部聞いてから、つなぐ人が要ります」
係長は綴りを閉じた。
「それが、うちの仕事ですか」
「そうです」
長谷はペンを渡した。
「まず、名前を書いてください。四つ目です」
――了――
この話のFM豆知識
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※本作はフィクションです。登場する人物・団体・自治体等はすべて架空であり、実在するものとは関係ありません。作中の制度・法令に関する記述は一般的な説明であり、最新情報は関係省庁にご確認ください。詳しい注記はこちら
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